KATOから発売されているSD80MAC、SD90/43MAC、そしてSD70ACU。これらの機関車は大柄なアメリカ型の中でも頭一つ分長く、編成に組み込まれるとひときわ目を引きます。これら3機種にはいったいどのような違いがあるのでしょうか?今回は、それぞれの特徴や魅力について、軽く触れてみたいと思います。

まずはSD80MACについて。
本機はSD70系列と同じ「710系エンジン」を搭載していますが、気筒数をV型20気筒に増やすことで5,000馬力を発揮します。元々このエンジンは16気筒・4,000馬力級が基本だったため、4気筒追加したことでエンジン自体が長くなり、冷却装置も大型化しました。その結果、SD70に比べて車体長が頭一つ分長くなりました。
では、なぜこのようなモンスター機が生まれたのでしょうか?
発注元であるコンレイル(Conrail)の要望は、「これまで4,000馬力級の直流(DC)機4両で牽引していた列車を、わずか2両で牽引したい」というものでした。「5,000馬力×2両=10,000馬力」では、4,000馬力×4両(16,000馬力)に対して計算が合いませんよね?
ここに「AC」の秘密があります。形式名が示す通り(M=ワイドキャブ、AC=交流モーター)、本機は最新の交流モーターを搭載していました。従来のDC機は、過酷な山岳地帯をフルパワーで登るとモーターが焼き切れるリスクがあり、「〇分定格」という時間制限がありました。しかし、熱に強いAC機であればその心配がありません。「AC機の5,000馬力×2両なら、100%の実力を出し切って峠越えができる」と試算されたのです。
ただし、当時は単機で5,000馬力を出せる新世代エンジンがなく、SD90MACに搭載予定の4ストローク「265H系エンジン(6,000馬力)」はまだ開発途中でした(SD80とSD90/43は共に1995年リリース)。そこでEMD社は、実績のある2ストロークの710系を20気筒化するという力技で対応したのです。2ストロークゆえにフルパワー時の燃費は劣悪でしたが、幸いにもコンレイルが挑むアレゲニー山脈の峠越えは短時間だったため、その燃費の悪さは許容範囲内でした。
しかし、最初の30両が納入され、さらに30両の追加発注が予定されていた矢先、コンレイルがNS(ノーフォーク・サザン)とCSXに分割買収されてしまったのです。新オーナーとなった両社は、20気筒という異端児の増備ではなく「機種の標準化」を選び、発注はキャンセルされました。
最終的にすべてのSD80MACはNSへと集約されましたが、北米の膨大な機関車群のなかで「わずか30両」しか存在しない幻の高性能機となったのです。現場の運転士からは「大馬力で乗り心地が良い」と大好評だったようですが、経営陣や整備士にとっては、たった30両のために専用パーツをストックしなければならず、引退まで悩みの種だったようです。

次にSD90MACについて。
本機には、SD70系列と同じ710系エンジンを搭載した暫定モデルの「SD90/43MAC」と、本命の最新4ストロークエンジンを積み、6,000馬力を叩き出す「SD90MAC(本来の仕様)」の2モデルが存在します。(厳密には、初期の平らなキャブを持つフェーズ1と、SD70Mに似た丸みのあるキャブを持つフェーズ2に分かれます)
UP(ユニオン・パシフィック)やCP(カナディアン・パシフィック)のようにロッキー山脈を越える鉄道会社にとって、日々増加する貨物需要をさばくためには、4,000馬力級を凌ぐ大馬力機がどうしても必要でした。
では、なぜSD80ではなくSD90でなければならなかったのでしょうか?最大の理由は、新開発のエンジンが燃費に優れた「4ストローク」だったからです。SD80の2ストロークエンジンはフルパワー時の燃費が悪く、上り勾配が延々と続くロッキー山脈を越え、中西部の広大な原野を突っ切る長距離運転においては、その燃費の悪さは致命的だったのです。
しかし、EMD社にとって「4ストロークで6,000馬力」という大出力エンジンの開発は初の試みであり、難航します。新型エンジンの完成を待っていられないUPに対し、EMD社は「暫定的にSD70と同じエンジンを積んで出荷し将来的に新エンジンへ換装」という苦肉の策を提案しました。こうして1995年にリリースされたのが、暫定仕様のSD90/43MACです。
実際には、その翌年である1996年8月には、最初から265H型エンジンを積んだ「真のSD90MAC」が登場しています。わずか1年の差ですが、なぜUPは待てなかったのでしょうか。
当時、UPはシカゴ・アンド・ノース・ウェスタン(C&NW)や、サザン・パシフィック(SP)などの大手を次々と吸収合併したものの、買収先の設備や機関車の老朽化がボトルネックとなり、北米全域の物流を大混乱させ、政府が介入するほどの輸送障害を起こしていました。そのためUPは、新鋭機に1年も待っていられないという極限状態に陥っていたのです。
そうして、満を持して登場した本命の265H型エンジンは、散々なものでした。EMD初の4ストローク、しかも6,000馬力という未知の領域に対し、ピストン部が耐えきれず「走行中にエンジンが爆発する」という致命的なトラブルが頻発。さらに、シーメンス製の電装品も信頼性が低く、電気系統の故障も多発しました。期待の最新鋭機は、いつ壊れて編成出力を半減させるか分からない、動く時限爆弾と化してしまったのです。
このSD90MACの大失敗は、北米の機関車シェアを激変させます。ライバルのGE社が送り出した4,400馬力機「AC4400CW」の抜群の信頼性と、同じく6,000馬力級として開発された「AC6000CW」が曲がりなりにも動いたことで、UP内におけるEMDの信頼は失墜。北米市場全体におけるEMDのシェアは、3割にまで急低下することになります。
結局、UPと同様にSD90MACを購入したCPは早々に全車を休車にして売りに出し、UPも「6,000馬力へのエンジン換装」を完全にあきらめ、使い勝手の良い暫定モデル(SD90/43MAC)のままで使い続ける道を選んだのでした。
結果としてSD90はSD90/43仕様が410両(UP309両、CP61両、CEFX40両)、SD90MACは68両(UP64両、CP4両)と言う極少数の製造数に留まりました。

ちなみにKATOが製品化しているものはSD90/43MACのフェーズ1とSD80MACなので瓜二つですが、SD80とSD90を見分けるポイントとしては、車体後部の砂箱が小さく、後部にもナンバープレートが付いているのがSD80、砂箱が大きくラジエーターまで伸びていてナンバープレートがないのがSD90/43MACとなっています。
さらに本来のSD90MACの場合はエンジン冷却ファンが大型化して2個になっています。
では、SD70ACUとはいったいどのような機関車なのでしょうか。
UPのSD90/43MAC309両のうち142両は早々にEMD社へ下取りされ、本命のSD90MAC62両にいたってはKCS(カンザス・シティ・サザン)への短期リース等を経てすべて廃車・スクラップとなりました。CPの生え抜き機たちも、2000年代後半には早々に休車へと追い込まれてしまいます。
この、EMD社へ戻ってきた「下取り車」に目をつけたのが、北米の1級鉄道のなかで最も堅実、言い方を変えればケチとして知られるノーフォーク・サザン鉄道(NS)でした。NSは2014年にまず100両、その後追加で10両、計110両のSD90/43MACをEMDから格安で購入します。NSの狙いは明確でした。
「ボロボロになった電装系やキャブはダメだが、フレームはSD80系統譲りの重くて頑丈な一級品。なら、エンジンを換装し、シーメンス製の電装品を三菱電機製に変え、キャブも最新の安全基準を満たしたSD70ACe仕様に載せ替えればいい。そうすれば、新車のSD70ACeやGE製ES44ACを買うよりも遥かに安く、最新鋭の交流(AC)機が手に入る」
こうしてリビルドされ、「SD90の頑丈な巨体に、最新のSD70の頭脳と心臓を移植した機関車」として誕生したのがSD70ACUです。
このNSの成功を見たCPも、全く同じ経緯で「新車を買うより安く最新鋭機を揃える」べく、自社で眠っていた30両弱と、UPから新たに買い集めた42両に同様のリビルドを敢行。こうしてCPでもSD70ACUが誕生することになりました。
なぜ「SD90ACU」ではなく「SD70ACU」という名前になったのでしょうか?
これは日本型のファンがよく疑問に思うポイントですが、アメリカ型の形式名は、外観(車体)ではなく「搭載しているエンジンの系統(馬力)」に紐づいて付けられるからです。
もし「SD90ACU」にしてしまうと、現場では「265系エンジンを積んだ6,000馬力級の機関車」だと誤解されてしまいます。しかし、この改造車が積んでいるのはSD70系列と同じ「710系エンジン(4,300馬力)」。そのため「SD70ACU」と名乗ることで、オペレーターや整備士も「他のSD70と同じ扱いでいいんだな」と瞬時に判断できます。
複数の機関車を連結し、総馬力を計算しながら重連を組む北米の鉄道において、形式名から一目で性能が分かることは、運用上きわめて重要な意味を持っています。
こうした事例はSD70ACUだけに限ったことではありません。
同じEMD製であれば、出力を下げて「GP40」から「GP38-2」へ編入されたり、「SD50」からSD40世代の派生形である「SD40-3」へと編入された事例などが有名です。
また、SD90のライバル機であったGE製の「AC6000CW」も同様の運命を辿りました。暫定仕様の「AC6044CW」を経て、後年に近代化リビルドされた際には、見た目はそのままに「ES44AH」や「C44ACM」へと改称され、現代の主流である4,400馬力(エボリューション・シリーズ等)のファミリーへと組み込まれたのです。
ちなみに、「NSは自社が保有していたSD80MACをリビルドしなかったのか?」という疑問ですが、エンジン仕様の違いがありました。SD80MACは最初から「20気筒エンジン」を積んだ5,000馬力機だったのに対し、SD90/43MACは最初から「16気筒エンジン」を積んだ4,300馬力機でした。もしSD80MACをSD70ACU仕様にリビルドする場合、巨大な20気筒エンジンを下ろした大空間に、わざわざマウントを新造して小柄な16気筒に載せ替えるという、非効率な設計変更が必要になります。かと言って、わずか30両のために20気筒エンジンをメーカーに再開発・新造させるなど論外でした。
そのため、「SD80ACU」やSD80を素体としたSD70ACUが生まれることはなく、SD80MACはすべて現役を引退することになります。














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