君は僕に似ている EMD SD80&SD90/43

KATOから発売されているSD80MAC、SD90/43MAC、そしてSD70ACU。これらの機関車は大柄なアメリカ型の中でも頭一つ分長く、編成に組み込まれるとひときわ目を引きます。これら3機種にはいったいどのような違いがあるのでしょうか?今回は、それぞれの特徴や魅力について、軽く触れてみたいと思います。

created by Rinker
¥31,790 (2026/07/20 19:22:30時点 楽天市場調べ-詳細)

まずはSD80MACについて。

本機はSD70系列と同じ「710系エンジン」を搭載していますが、気筒数をV型20気筒に増やすことで5,000馬力を発揮します。元々このエンジンは16気筒・4,000馬力級が基本だったため、4気筒追加したことでエンジン自体が長くなり、冷却装置も大型化しました。その結果、SD70に比べて車体長が頭一つ分長くなりました。
では、なぜこのようなモンスター機が生まれたのでしょうか?
発注元であるコンレイル(Conrail)の要望は、「これまで4,000馬力級の直流(DC)機4両で牽引していた列車を、わずか2両で牽引したい」というものでした。「5,000馬力×2両=10,000馬力」では、4,000馬力×4両(16,000馬力)に対して計算が合いませんよね?
ここに「AC」の秘密があります。形式名が示す通り(M=ワイドキャブ、AC=交流モーター)、本機は最新の交流モーターを搭載していました。従来のDC機は、過酷な山岳地帯をフルパワーで登るとモーターが焼き切れるリスクがあり、「〇分定格」という時間制限がありました。しかし、熱に強いAC機であればその心配がありません。「AC機の5,000馬力×2両なら、100%の実力を出し切って峠越えができる」と試算されたのです。
ただし、当時は単機で5,000馬力を出せる新世代エンジンがなく、SD90MACに搭載予定の4ストローク「265H系エンジン(6,000馬力)」はまだ開発途中でした(SD80とSD90/43は共に1995年リリース)。そこでEMD社は、実績のある2ストロークの710系を20気筒化するという力技で対応したのです。2ストロークゆえにフルパワー時の燃費は劣悪でしたが、幸いにもコンレイルが挑むアレゲニー山脈の峠越えは短時間だったため、その燃費の悪さは許容範囲内でした。
しかし、最初の30両が納入され、さらに30両の追加発注が予定されていた矢先、コンレイルがNS(ノーフォーク・サザン)とCSXに分割買収されてしまったのです。新オーナーとなった両社は、20気筒という異端児の増備ではなく「機種の標準化」を選び、発注はキャンセルされました。
最終的にすべてのSD80MACはNSへと集約されましたが、北米の膨大な機関車群のなかで「わずか30両」しか存在しない幻の高性能機となったのです。現場の運転士からは「大馬力で乗り心地が良い」と大好評だったようですが、経営陣や整備士にとっては、たった30両のために専用パーツをストックしなければならず、引退まで悩みの種だったようです。

次にSD90MACについて。

本機には、SD70系列と同じ710系エンジンを搭載した暫定モデルの「SD90/43MAC」と、本命の最新4ストロークエンジンを積み、6,000馬力を叩き出す「SD90MAC(本来の仕様)」の2モデルが存在します。(厳密には、初期の平らなキャブを持つフェーズ1と、SD70Mに似た丸みのあるキャブを持つフェーズ2に分かれます)
UP(ユニオン・パシフィック)やCP(カナディアン・パシフィック)のようにロッキー山脈を越える鉄道会社にとって、日々増加する貨物需要をさばくためには、4,000馬力級を凌ぐ大馬力機がどうしても必要でした。
では、なぜSD80ではなくSD90でなければならなかったのでしょうか?最大の理由は、新開発のエンジンが燃費に優れた「4ストローク」だったからです。SD80の2ストロークエンジンはフルパワー時の燃費が悪く、上り勾配が延々と続くロッキー山脈を越え、中西部の広大な原野を突っ切る長距離運転においては、その燃費の悪さは致命的だったのです。
しかし、EMD社にとって「4ストロークで6,000馬力」という大出力エンジンの開発は初の試みであり、難航します。新型エンジンの完成を待っていられないUPに対し、EMD社は「暫定的にSD70と同じエンジンを積んで出荷し将来的に新エンジンへ換装」という苦肉の策を提案しました。こうして1995年にリリースされたのが、暫定仕様のSD90/43MACです。
実際には、その翌年である1996年8月には、最初から265H型エンジンを積んだ「真のSD90MAC」が登場しています。わずか1年の差ですが、なぜUPは待てなかったのでしょうか。
当時、UPはシカゴ・アンド・ノース・ウェスタン(C&NW)や、サザン・パシフィック(SP)などの大手を次々と吸収合併したものの、買収先の設備や機関車の老朽化がボトルネックとなり、北米全域の物流を大混乱させ、政府が介入するほどの輸送障害を起こしていました。そのためUPは、新鋭機に1年も待っていられないという極限状態に陥っていたのです。
そうして、満を持して登場した本命の265H型エンジンは、散々なものでした。EMD初の4ストローク、しかも6,000馬力という未知の領域に対し、ピストン部が耐えきれず「走行中にエンジンが爆発する」という致命的なトラブルが頻発。さらに、シーメンス製の電装品も信頼性が低く、電気系統の故障も多発しました。期待の最新鋭機は、いつ壊れて編成出力を半減させるか分からない、動く時限爆弾と化してしまったのです。
このSD90MACの大失敗は、北米の機関車シェアを激変させます。ライバルのGE社が送り出した4,400馬力機「AC4400CW」の抜群の信頼性と、同じく6,000馬力級として開発された「AC6000CW」が曲がりなりにも動いたことで、UP内におけるEMDの信頼は失墜。北米市場全体におけるEMDのシェアは、3割にまで急低下することになります。
結局、UPと同様にSD90MACを購入したCPは早々に全車を休車にして売りに出し、UPも「6,000馬力へのエンジン換装」を完全にあきらめ、使い勝手の良い暫定モデル(SD90/43MAC)のままで使い続ける道を選んだのでした。
結果としてSD90はSD90/43仕様が410両(UP309両、CP61両、CEFX40両)、SD90MACは68両(UP64両、CP4両)と言う極少数の製造数に留まりました。

ちなみにKATOが製品化しているものはSD90/43MACのフェーズ1とSD80MACなので瓜二つですが、SD80とSD90を見分けるポイントとしては、車体後部の砂箱が小さく、後部にもナンバープレートが付いているのがSD80、砂箱が大きくラジエーターまで伸びていてナンバープレートがないのがSD90/43MACとなっています。
さらに本来のSD90MACの場合はエンジン冷却ファンが大型化して2個になっています。

created by Rinker
¥24,530 (2026/07/20 19:11:21時点 楽天市場調べ-詳細)

では、SD70ACUとはいったいどのような機関車なのでしょうか。
UPのSD90/43MAC309両のうち142両は早々にEMD社へ下取りされ、本命のSD90MAC62両にいたってはKCS(カンザス・シティ・サザン)への短期リース等を経てすべて廃車・スクラップとなりました。CPの生え抜き機たちも、2000年代後半には早々に休車へと追い込まれてしまいます。
この、EMD社へ戻ってきた「下取り車」に目をつけたのが、北米の1級鉄道のなかで最も堅実、言い方を変えればケチとして知られるノーフォーク・サザン鉄道(NS)でした。NSは2014年にまず100両、その後追加で10両、計110両のSD90/43MACをEMDから格安で購入します。NSの狙いは明確でした。
「ボロボロになった電装系やキャブはダメだが、フレームはSD80系統譲りの重くて頑丈な一級品。なら、エンジンを換装し、シーメンス製の電装品を三菱電機製に変え、キャブも最新の安全基準を満たしたSD70ACe仕様に載せ替えればいい。そうすれば、新車のSD70ACeやGE製ES44ACを買うよりも遥かに安く、最新鋭の交流(AC)機が手に入る」
こうしてリビルドされ、「SD90の頑丈な巨体に、最新のSD70の頭脳と心臓を移植した機関車」として誕生したのがSD70ACUです。
このNSの成功を見たCPも、全く同じ経緯で「新車を買うより安く最新鋭機を揃える」べく、自社で眠っていた30両弱と、UPから新たに買い集めた42両に同様のリビルドを敢行。こうしてCPでもSD70ACUが誕生することになりました。

なぜ「SD90ACU」ではなく「SD70ACU」という名前になったのでしょうか?
これは日本型のファンがよく疑問に思うポイントですが、アメリカ型の形式名は、外観(車体)ではなく「搭載しているエンジンの系統(馬力)」に紐づいて付けられるからです。
もし「SD90ACU」にしてしまうと、現場では「265系エンジンを積んだ6,000馬力級の機関車」だと誤解されてしまいます。しかし、この改造車が積んでいるのはSD70系列と同じ「710系エンジン(4,300馬力)」。そのため「SD70ACU」と名乗ることで、オペレーターや整備士も「他のSD70と同じ扱いでいいんだな」と瞬時に判断できます。
複数の機関車を連結し、総馬力を計算しながら重連を組む北米の鉄道において、形式名から一目で性能が分かることは、運用上きわめて重要な意味を持っています。
こうした事例はSD70ACUだけに限ったことではありません。
同じEMD製であれば、出力を下げて「GP40」から「GP38-2」へ編入されたり、「SD50」からSD40世代の派生形である「SD40-3」へと編入された事例などが有名です。
また、SD90のライバル機であったGE製の「AC6000CW」も同様の運命を辿りました。暫定仕様の「AC6044CW」を経て、後年に近代化リビルドされた際には、見た目はそのままに「ES44AH」や「C44ACM」へと改称され、現代の主流である4,400馬力(エボリューション・シリーズ等)のファミリーへと組み込まれたのです。

ちなみに、「NSは自社が保有していたSD80MACをリビルドしなかったのか?」という疑問ですが、エンジン仕様の違いがありました。SD80MACは最初から「20気筒エンジン」を積んだ5,000馬力機だったのに対し、SD90/43MACは最初から「16気筒エンジン」を積んだ4,300馬力機でした。もしSD80MACをSD70ACU仕様にリビルドする場合、巨大な20気筒エンジンを下ろした大空間に、わざわざマウントを新造して小柄な16気筒に載せ替えるという、非効率な設計変更が必要になります。かと言って、わずか30両のために20気筒エンジンをメーカーに再開発・新造させるなど論外でした。
そのため、「SD80ACU」やSD80を素体としたSD70ACUが生まれることはなく、SD80MACはすべて現役を引退することになります。

KATO EMD SD90/43MAC CP #9136
created by Rinker
¥12,700 (2026/07/20 19:14:25時点 楽天市場調べ-詳細)
created by Rinker
¥6,160 (2026/07/21 01:09:04時点 楽天市場調べ-詳細)

 

カント付きカーブでダブルスタックカーを走らせる

HOゲージ?Nゲージ?どっちがいいの?

関連記事

  1. アメリカ型の魅力について

    アメリカの鉄道と言えば、大きい!長い!と言う印象を持つ方が多いのではないでし…

  2. アムトラックサーフライナーを買ってみる

    「サーフライナー」という名称は客車を指し、「パシフィック・サーフライナー」は…

  3. セントレイリア スーパードームカーを買ってみる

    スーパードームカーは、1952年からプルマン・スタンダード社によって製造され…

  4. マイクロトレインズ ウェザリング貨車を買ってみる…

    マイクロトレインズは、NゲージとZゲージを手掛けるアメリカの鉄道模型…

  5. UPヘリテージユニットを買ってみる

    一部のヘリテージユニットは再生産が予定されているとはいえ、コレクターの生前整…

  6. カント付きカーブでダブルスタックカーを走らせる

    複数の機関車が地平線の彼方まで続く2段重ねのコンテナ貨車を牽引する姿は、北米…

  7. 短いけど長いハーフマイルトレイン

    北米大陸の貨物列車といえば、重連の機関車に牽かれた長大編成が延々と続く―そん…

  8. Bachmann UP250トン操重車を買ってみ…

    鉄道クレーン車は、脱線事故の復旧作業や線路脇の工事などで活躍する特殊車両です…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP